クリニックM&Aナビの運営会社である株式会社forteONE(フォルテワン)では、医療機関特有の経営課題解決に特化した専門家が、クリニックの医業承継支援を行っています。本日は、弊社の支援実績の中から、病院がクリニックを承継した事例をご紹介いたします。

譲渡クリニック      譲受病院     
Tクリニック 医療法人 M会
   福岡県/整形外科クリニック    九州・関東/病院

 

【担当者プロフィール】
古舘 慎一郎
株式会社フォルテワン代表取締役 公認会計士・税理士・M&Aコンサルタント。

―まずはじめに、今回の売り手であるTクリニックとの出会い、
そして、依頼をいただく際にあった課題について教えてください。

古舘 Tクリニックは、提携先の銀行からご紹介をいただきました。最近では、銀行も自社でM&Aのマッチングをしていることが多いですが、クリニックM&Aの場合、買い手候補となるのは勤務医の先生がほとんどです。銀行が勤務医とネットワークを持つことはあまり無く、マッチングが難しいとのことでクリニックM&A実績の多い当社にご依頼をいただきました。
Tクリニックに初めて訪問したのは2020年の6月でした。院長のT先生は、ご高齢ながら精力的に診察されていて、「非常に活気のある方」という印象を受けました。事務長である奥様が体力的に厳しくなったことをきっかけに、事業承継を考え始められたようです。ご夫婦には医師の娘さんがいらっしゃいますが、診療科が異なるため後継者が不在だったんですね。

―Tクリニックはどのようなクリニックでしょうか?

古舘 開業から30年以上の地域に根付いた整形外科クリニックです。現在は外来を中心とした診療で、T先生は患者さん思いの優しい先生のため昔から通われている方も非常に多いです。
そういったお人柄から、譲受先については「金額よりも人柄重視で、地域に根付いて診療をしてくれる個人の先生に譲りたい」という意向がありました。私たちと会う前には、出身大学の医局に譲渡の相談をされていたと聞いています。譲渡を考える先生は、医局へご相談されることがよくありますが、医局の立場になって考えると独立希望の勤務医の情報を全て把握できているわけではなく、また、医局側も勤務医に退職されては困るためなかなか見つからないのが実情です。

―なるほど。そこでフォルテワンに依頼が来たというわけですね。譲受先はどのように探したのですか?

古舘 まず、Tクリニックの価値評価として、立地が良く地域の患者さんが多いため、ご高齢の先生が経営している医院としては良好な経営状況でした。不動産は、主にT先生が所有する土地と複数階建ての診療所ですね。現在使用しているのは外来を行っている1階部分のみで、上階にある入院用の病室と手術室は使用していない状態でした。そのため、まずは現在のTクリニックと同じ形態で運営できるよう、上階の病床機能を使用しない前提で外来志望の先生を中心に提案していきました。

関心を示していただいた先生も多く、実際に3人ほど現地までお連れしました。ただ、どの先生も「上階の病室部分の活用方法が思いつかない」とのことで合意には至りませんでした。病室を仕切る壁を取り壊そうにも建物自体が鉄筋コンクリート造だったため、コストが高くなることもマイナス要因となりました。
そこで、外来と病床両方のニーズがある譲受先にも提案を行い、その結果、探し始めてから7ヶ月後に、今回の譲受先となる医療法人グループ、医療法人M会の理事長とのトップ面談が実現しました。

―M会のどのような点が合致したのでしょうか?

古舘 M会は、九州と関東で病院を展開していて、手術件数も多く、学会でも積極的に論文を発表している医療法人グループです。一見するとT先生の希望にあわない候補先のようですが、M会は、Tクリニックを引き継いだ後に、誰に院長を任せるかという所まで考えてくださっていました
院長候補の方は、M会の取り組みに賛同しグループに参画したいと考えている福岡出身の先生で、いずれは地元で地域に根付いた診療をしたいとの意向がありましたので、T先生も安心されたことと思います。無事成約となり、Tクリニックは現在の患者さんの診療を長く続けることができる上、新たな診療分野が追加される形となりました。

―フォルテワンでは、過去に有床クリニックのM&A実績があったと聞いています。
クリニックM&Aに強みを持つ仲介業者ならではのポイントがあれば教えて下さい。

古舘 有床クリニックの場合、病床の移動許可を取らなければならないため承認のハードルが高くなります。福岡県自体も病床数を減らそうとする動きがありますから、例え両者が合意しても県の許可を得ることができなければM&Aは実現しません。過去の経験から、合意後の動きを把握していたため、どのような承認プロセスが必要になるかや、それに伴う手続きのスケジュールなどを前提に契約を進められたところは良かったと感じています。

―Tクリニックは今後、どのような流れで経営のバトンを渡していくのでしょうか?

古舘 従業員の雇用も継続したままで、しばらくの間はT先生が診療を続けます。というのも、院長候補の先生は現在、他県で勤務されており、福岡に来ることができるのはしばらく後の予定なのです。そのため、それまでは経営の引き継ぎ期間としてT先生も現場で診療を続けることになっています。ただし、奥様がされていた事務業務はM会がすぐに引き継ぐ形となります。T先生と奥様、お二人の希望を叶える形に落ち着き、私も安堵しています。

―これからクリニックの譲渡を検討される方に伝えたいことはありますか?

古舘 はい。大きく2つあり、1つ目は「早めの行動を心がけましょう」ということです。
今回のM&Aでは、譲受先探しを始めてから成約まで1年半ほどかかっています。診療科目や立地などの条件によって譲受先が見つかる期間は異なってきますが、今回のケースは比較的早く見つかった方だと思います。通常は、譲受先を探すだけでもかなりの時間を要する上に、今回の事例のように成約後すぐに経営体制を移行できるわけではないこともよくあります。今、健康面に問題がなくても、将来的なリスクに備え、早め早めの行動を心がけていただきたいと思います。
M&Aが成立したらすぐに引退しないといけないわけではありません。次の院長とともに満足いくまで診療に携わることもできるということを知っておいていただきたいですね。

 次に伝えたいのが「専門家を頼りましょう」ということです。承継を考えるドクターのなかにはご自分の力でなんとかしようと考えられる方も非常に多いと感じています。それも一つの方法で間違いではないと思いますが、どうしてもルートが限られてしまうのと、譲受先がお知り合いの場合だと価格交渉がしにくい場面も出てくると思います。当社のような専門業者にご依頼いただくと、豊富なネットワークの中からより良い候補者が出てくる可能性があります。また、当社では譲渡側、譲受側それぞれの背景やご事情を最大限考慮した柔軟な提案を行っており、院長先生の納得に近い形でのM&Aを実現できるよう心がけています。

―本日はありがとうございました。

2022/7/21
取材:税理士法人アップパートナーズ 堀 彩寧